コラム

アスクワンのコンサルタント・コラム

Vol.10

コラムタイトル 「私」から「私たち」へ

 コンサルタント 渡辺 伊津子

■「自動ネガティブ思考」の容赦ない攻撃

先日、某メーカーに勤める20代のA子さんと話をする機会がありました。彼女は入社5年目の営業職で、職場では人気者の明るい女性です。その日はいつになく元気がなかったので、不思議に思って話しかけてみると、その日の重要な会議で自分の意見を全く言えなかったということでした。会議のメンバーのなかに、自分の意見を強力に押し出す人がいて、最初は「まず彼の意見を聴いてみよう」と思っていたそうですが、そうこうしているうちに自分の意見に自信がなくなってきて、結局何も発言できないまま終わってしまったそうです。とても悔しいと少し下を向きかげんで話をしてくれました。

会議のみならず、人前で自分の意見を言うのは勇気がいることですし、決して簡単ではありません。とくに女性は、その場の雰囲気を敏感に読み取り、控えめな態度で黙っているというようなこともしばしばあります。では、そんな時、心の中で何を思っているでしょうか?たとえば、こんなことを考えたりしているのではないでしょうか?


「今、自分の意見を言ったりすれば、でしゃばりだと思われるかも。」

「前に自分の意見をはっきり主張したことがあったけど、あの時は上司の心証を悪くしたみたいだったわ。」

「自分の意見を述べて、もしプロジェクトに採用されたりしたらどうしよう。自分にそのプロジェクトを成功

 させる力があるとは思えないし。」

「よくよく考えてみると、自分の意見は根拠も薄いし。あえて言わなくてもいいかも。」


どうでしょうか?わたしにも似たような経験があります。ケイ&シップマン(2015)はその著書のなかで、こうした思考を「自動ネガティブ思考」と呼んでいます。この思考は、われわれの「自信」に攻撃を加え、ポジティブな思考よりも頻繁に私たちを取り囲み、光の速さで増殖するそうです。だとすれば、さきほどの会議はほんの一例で、われわれは常に自分の自動ネガティブ思考から攻撃を受けているのかもしれません。たとえば、買い物をしては「あのスカートは高すぎたわ。なんで私はお金を無駄にしちゃったんだろう」と思い、職場では「きっと彼のほうがわたしより評価が高いに違いないわ」と考える。でも、そんな毎日では、われわれはいつまでたっても「自信」をつけることはできません。

■「私」から「私たち」へ

そこでケイ&シップマン(2015)は1つの提案をしています。それは、「私」ではなく「私たち」に注意をフォーカスすることです。その著書『なぜ女は男のように自信をもてないのか』は、主に女性が自信をもつためにどうすればよいのかについて書かれたものですが、自動ネガティブ思考に攻撃されているのは、女性だけではないはずです。

ケイ&シップマン(2015)によれば、自信をつけるためには「自分自身」にフォーカスするのではなく、すべてのことを「自分たちのこと」として捉えることが必要だということです。自分の気持ちや能力について考えたり、自分自身を評価したり、自分をメロドラマの主人公にしたりするのは、われわれの動きを抑制し、無力化させてしまう傾向があります。そうではなくて、準備をしたあとは、自分の注意力を、チームや会社をどれくらい助けられるかということに向けたほうがいい。そうすることで、注目すべき点も変わるし、もっと大胆で積極的に行動できるようになる。つまり、われわれは「私」ではなく「私たち」という考え方をすることでうまくいくことが多いということです。

会議で発言できなかったA子さんは、職場や組織の代表者として自分たちの意見を準備していたはずです。次回の会議では、ぜひ「私たち」に注意をフォーカスして、大胆に積極的に発言してほしいと思っています。

参考文献

  • キャティー・ケイ&クレア・シップマン(2015)『なぜ女は男のように自信をもてないのか』
  • cccメディアハウス
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