コラム

アスクワンのコンサルタント・コラム

Vol.11

コラムタイトル 謙虚に問いかける「心」

 コンサルタント 渡辺 伊津子

■問いかけるというスキル

コミュニケーションのスキルというと、誰もが最初に思いつくのは「話すスキル」ではないでしょうか?いかに論理的に話すか、いかに相手に正確に伝えるかなど、ビジネスの世界ではやはり自分の主張をしっかり話すことが望ましいとされています。そしてもう1つのスキルが「聴くスキル」ですね。最近では「傾聴」や「共感」という言葉も頻繁に使われるようになり、アクティブ・リスニング(積極的傾聴)の重要性が指摘されています。相手が話しているときに、次に自分が何を言おうか考えていては、なかなか相手の言うことは耳にはいってきませんよね。ではもう1つ、コミュニケーションにとって重要なスキルがあるのをご存じですか?

それは「問いかけるスキル」です。エドガー・シャイン(E.Shein)はその著書『問いかける技術(Humble Inquiry)』のなかで、「謙虚に問いかけること」が良い人間関係にとっていかに大切であるかを説得力をもって語っています。

ここでみなさんにちょっと想い出してもらいたいことがあります。「あの時、ああいえばよかった」と思う会話はありませんか?たとえば部下に対して、仕事上の助言をしたつもりが、なんだか無視されてしまい関係がギクシャクしてしまった。あのとき仕事の状況について部下に尋ねていたら、もう少し違った言い方ができたのかも、など。こうした経験は、職場のみならず家庭でもありますよね。

■会話の主導権を相手に渡す

われわれは相手と会話をするなかで、「自分の言い分を伝えること」と「相手の話を聞くこと」のバランスをとろうとしています。うまくバランスが取れればいいのですが、時に混乱し、ついつい自分の話を優先させてしまいます。さきほどのケースのように、自分が上司で仕事上の知識もある場合などは、ついつい相手の話を聞く前に自分の言い分を優先させてしまいがちです。それは自分が物事を主張し、会話の主導権をとることで、相手よりも強い立場に立つことができるからです。

これとは逆に、「謙虚に問いかける」とは、「会話の主導権を相手に渡す」ことで一時的に自分を「弱い立場」に置くことです。シャインによれば、自分の知らないことについて相手に質問を投げかけ、それに耳を傾けることで、自分が知らなかったことや求めていた情報が手に入るだけでなく、こうした連鎖を相互に繰り返すことで相手との心のつながりを築くことができます。この意味で、謙虚に問いかけることは「先行投資」であり、相手に質問せず自分が話し手いることは「大きなリスク」であると述べています。以下は「謙虚に問いかける」についてのシャインの定義です。


謙虚に問いかけるとは、相手の警戒心を解くことのできる手法であり、自分では答えが見いだせないことについ

て質問する技術であり、その人のことを理解したいという純粋な気持ちを持って関係を築いていくための流儀で

ある。


わたしにはこの定義の最後のフレーズ、「その人のことを理解したいという純粋な気持ち」というのが印象に残りました。問いかけるという技術の本質は、その人を感じたいという「心」だということです。相手に対して、「なぜそういうふうに考えるのだろう?」、「なぜそのように感じるのだろう?」、「なぜそういう行動をするのだろう?」というように、その人を感じたいという心、いいかえれば人間に対する関心があってはじめて謙虚な問いかけができるのだと思います。

参考文献 : エドガー・シャイン(2014)『問いかける技術』英治出版

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