コラム

アスクワンのコンサルタント・コラム

Vol.12

コラムタイトル 「本物の決意を支えるもの」

 コンサルタント 渡辺 伊津子

■ モヤモヤ感情の正体とは

㈱アスクワンではビジネス・カウンセリングを行っています。ビジネス・カウンセリングとは経営者や管理者の皆様に、現在の会社や仕事の状況についてお話をしていただきながら、そのなかで今後の経営の方向性や問題の解決策について、自ら探り出していただくことを狙いとした「マンツーマン対話形式のカウンセリング」です。

経営者や管理者の方々の多くは、頭のなかでは「こうしたい」、「この方向でいきたい」といったぐあいに、会社の将来の構想や目標を語ってくれます。しかしよくよくお話を聞いていくと、「でも、なんだかモヤモヤして次の一歩を踏み出せない」とか、「いざとなると決断できない」とおっしゃって、立ち止まってしまうことも多いようです。傍でみていると、この状態がかなりのストレスになっている印象を受けます。ではこのモヤモヤの正体は何でしょうか?

もちろんさまざまな理由があると思いますが、その原因の1つは「板挟み」にあるのかもしれません。板挟みという言葉は日常的に使われていますが、心理学では「あちらを立てればこちらが立たず」というような状態を「アンビバレンス(両面価値)」と呼んでいます。アンビバレンスとは、われわれが「ある対象に対して相反する感情や態度を同時に持つこと」で、それは少なからず心理的葛藤を生み出します。ここでいうモヤモヤ感情です。

ビジネスマンであれば、「この仕事はやりたいけど、でもやりたくない」、「管理職になりたいけど、なりたくない」など、本人は気づいていないのかもしれませんが、アンビバレンスによってモヤモヤ感情が高まり、それが大きなストレスとなっていることもしばしば見受けられます。そもそも、会社における役職や職位そのものがアンビバレンスを生み出す大きな原因でもあります。たとえば部長であれば、社長や他の部長、部下などから相互に矛盾するような期待や要請をされるなどということは日常茶飯事であり、それがきっかけとなってアンビバレンスを感じてしまいます。

■ モヤモヤ感情から抜け出すには

では、こうしたモヤモヤ感情から抜け出すためにはどうすればよいでしょうか?たとえば、上司から「この仕事を君に任せるからやってみてくれ」と言われた場合を考えてみましょう。そのとき、すぐに決意することができず、モヤモヤ感情(その仕事をやりたいけど、やりたくない)が湧いてきたとしましょう。あなたは自分自身のこうした感情と素直に向き合いますか?それとも見てみぬふりをして結論を出しますか?

ひとまずモヤモヤ感情にふたをして、理性的に頭でいろいろ考えたとしましょう。たとえば「自分に何が求められているのだろうか」とか、「自分にとってこの仕事をやることでどのような利害があるだろうか」などと自問自答することで結論を出す場合です。このとき、モヤモヤ感情は自分に残ったままです。この場合、果たしてその決意は本心から意識したものといえるでしょうか?そして、その仕事に全力でコミットできるでしょうか?

本当の意味で決意を固めるためには、モヤモヤ感情と対峙する必要があるように思います。この仕事をやってみてくれと上司から言われたときに、モヤモヤ感情が湧きあがってきたなら、それとじっくり向き合うこと、すなわち自分自身の内面の相反する感情(アンビバレンス)と対峙することです。「このプロジェクトはほんとうに自分がやるべきものだろうか?」、「ほんとうに自分はやりたいのだろうか」と自問自答するなかで本物の決意が芽生えてくるのではないでしょうか?頭で考えても胸に手を当てても、「よしこれでいこう!」という決意こそが、その仕事に対するコミットメントを支えるものだと思います。

参考文献 : ハイケ・ブルック/スマントラ・ゴシャール・野田智義訳(2015)『アクション・バイアス』東洋経済新報社.

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