コラム

アスクワンのコンサルタント・コラム

Vol.15

コラムタイトル 「弱みを強みに変える関係づくり」

 コンサルタント 渡辺 伊津子

■ 強みへの期待

みなさま、こんにちは。冬季オリンピックも終わりましたね。日本選手の活躍に元気をもらったという人もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。集団スポーツにはチームワークが不可欠ですが、たとえ個人戦であっても、スピードスケートの小平選手のように周りの人のサポートが大きな力になっていることを改めて感じました。スポーツ同様、会社にもチームワークは不可欠です。会社では多くの人々が異なる役割をこなしながら1つの目的を実現するために協力していますが、そのさい、よく言われることが「強いチームや組織をつくるためには、一人一人がその強みを発揮すべきである」ということです。

人にはそれぞれ強みや得意なことがあります。リーダー向きの人、コミュニケーションが得意な人、研究熱心な人、創造力に富んだ人、語学の得意な人、先を見通す能力のある人などなど、数え上げればきりがありません。自分はどんなことが得意で、どんな資質や能力があるのかといった「強み」を軸にキャリアを選び、その力を発揮したいと思っている人がほとんではないでしょうか?また、マネジメントの側からみても、人の強みを引き出し、活かそうとしています。強みをうまく組み合わせることができれば、強いチームや組織ができるからです。ただし、以下では人間の強みばかりではなく、一見すると弱さや弱点と思えることも、見方を変えれば強みになるということについて考えてみたいと思います。

■ほんとに強みは強みなのか? 

ここで1冊の絵本をご紹介したいと思います。なかえよしをさんの『りんごがたべたいねずみくん』という絵本です。この絵本では、背の高い木に実っている赤いりんごを、小さな小さなねずみくんがなんとかしてとろうとする物語が描かれています。もちろんねずみくんが必至にジャンプしてもりんごには届きません。そんなねずみくんにおかまいなく、木登り上手なサルや、鼻の長い象、そして首の長いキリンたちは、その強みを活かしていとも簡単にりんごをとって立ち去っていきます。ねずみくんは悔しがり、彼らの強みをうらやましがります。そして「ぼくも、ジャンプできたらな~、首が長かったらな~」と嘆きます。

そこにアシカくんがやってきます。アシカくんは「いったいどうしたの?」とねずみくんに声をかけます。ねずみくんはアシカくんに「あなたは木登りができるか?鼻は長いか?首は長いか?」と尋ねます。アシカくんは「どれもぼくにはできないや・・」と答えますが、「でもひとつ、とくいなことがある」と言って、曲芸のボールのようにねずみくんを宙に浮かび上がらせます。その勢いを借りて木に飛び乗ったねずみくんは、見事にりんごをとることができたのです。

この物語のおもしろさは、ねずみもアシカもどちらも単独ではりんごをとることができないのですが、2人で協力して目的を実現するところにあります。人間はひとりでは弱い存在ですし、限界もあります。しかし、協働することでその限界を超えることができます。また、ねずみくんが嘆いていた自分の身体の「小ささ」、すなわち「弱み」は、アシカくんの得意の曲芸と組み合わさることで「強み」に変わっていることも、この物語のとても面白いところです。

会社という組織では、誰でも自分の強みをアピールしますし、マネジメント側もそれらを活かそうとします。しかし、それは物事の一面なのかもしれません。重要なことは、どのような協働関係をつくるかであり、その関係のなかではじめて個人の強みとは何かが規定されるという側面もあるということです。だとすれば、自分勝手に自分の強みをアピールしても、それが全体の目的の実現にとってプラスに働くとは限りませんし、状況が変われば強みと思われたことも弱みになる可能性もあるということです。この意味では、誰かの弱みを強みに変えてしまうような関係性を創り出すことが、組織の目的を実現するために必要なことといえるのかもしれません。

参考文献

  • 作・なかえよしを/絵・上野紀子(1975)『りんごがたべたいねずみくん』ポプラ社
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