コラム

アスクワンのコンサルタント・コラム

Vol.16

コラムタイトル 「なぜ部下に任せられないの?」

 コンサルタント 渡辺 伊津子

■権限委譲ができない原因

4月がスタートし、昇進などで新しいポジションに就いた方もいるのではないでしょうか。また、今まで以上に責任のある職位に就き、多くの部下を持つことになった方も多いと思います。どのような状況であれ、ビジネスパーソンとして活躍することや、理想の上司になることを胸に抱き、毎日奮闘していらっしゃるのではないでしょうか。

わたしの知人のAさんもそのひとりです。最近お話しする機会があったのですが、Aさんは、「部下に仕事を任せられない、自分でやらないと気がすまない性質で、なんでも自分でやってしまうので、時間がなくて困っている」とおっしゃっていました。同じような悩みを抱えている方も多いと思いますので、今回のコラムは、ロバート・キーガンとリサ・ラスコウ・レイヒー著(2009)『なぜ人と組織は変われないのか』を引用しながら、「部下に任せられない」という問題について考えてみたいと思います。

多くの上司が持っている理想のリーダー像として、「部下にもっと権限を与える」「部下の成長を支援する」「一歩後ろに下がった場所からリーダーシップを発揮したい」などがあると思います。しかし口でいうほど、権限委譲をおこなうことは簡単ではありません。なぜでしょうか?

キーガンとレイヒーによると、その理由は、上司が部下に「力を貸してほしいと頼めない」からです。(もちろん他の理由もありますが。)そこには、「権限を委譲することは、自分のやるべき仕事を他人に押しつけること」という思い込みが潜んでいるのです。さらに心の奥底には、「自分のやるべき仕事をほかの人に頼ったりすれば自尊心を失いかねない」という固定観念があり、自分の仕事を他人に押しつけることで自尊心を失くすのは嫌だし、自分が万能であるという自己イメージを傷つけたくないという心理が働き、権限委譲を行うことができないのです。

■リーダーの仕事は「部下を光り輝かせること」

このように、「自分のやるべき仕事をほかの人に頼ったりすれば自尊心を失いかねない」という固定観念があるかぎり、ヒトは次のどちらかの選択に迫られることになります。権限委譲を行わず、自分でバリバリ仕事をして、スーパースター的な存在として満足感を感じる。もしくは、権限委譲を行うことで、スーパースターとしての自己イメ―ジを失う。でも、ほんとうにこの二者択一しかとるべき道はないのでしょうか?

キーガンとレイヒーは、このどちらでもない新しい選択肢をつくりだせばいいと指摘しています。それは「自分が職場のスーパースターでなければ納得できない」という段階を卒業し、「ほかの人たちを光り輝かせることにより、自分も光輝くという道」を見出すことです。そのためには当然、「何が自分の仕事なのか」という点についての従来の考え方を変えなければなりませんが・・。より具体的にいえば、部下に割り振る仕事は、あくまでもその部下自身の仕事。それは自分がやるべき仕事ではない。自分の仕事は、部下が新しい目標や課題に取り組む過程で成長するのを助けることだと考えることです。すなわち、部下を光り輝かせ、成長させるためにリーダーシップを発揮する。この場合には、「よき権限委譲者」であることと「よきリーダー」であることは、二者択一でもジレンマでもなく、両立できるものとなります。みなさんも、考え方を少し変えて、こんな素敵なリーダーに挑戦してみませんか?

引用文献

  • ロバート・キーガンとリサ・ラスコウ・レイヒー著 池村千秋訳(2009)『なぜ人と組織は変われないのか』(第2部 第5章)英治出版株式会社.
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