コラム

アスクワンのコンサルタント・コラム

Vol.18

コラムタイトル 「動画配信による助け合い」

 コンサルタント 渡辺 伊津子

みなさん、こんにちは。みなさんは動画をよく見ますか?わたしは生活に関するものが好きでよく見ています。たとえば主婦やOLのユーチューバ―が配信している料理、掃除、メイク、そして朝や夜のルーティン(習慣的にやっていること)などをよく見ています。人気のユーチューバ―になると、チャンネル登録も何十万人とか、視聴回数にいたっては何百万回とか、とにかくすごいですよね。

動画を見ていて驚くことは、普通はみせないような私生活やプライベートなところを動画の中で、これでもかというくらいさらけ出しているところです。ベッドルームやタンスの中身、本日のお買い物食品、そしてスッピンなどなど。見ているこちら側が、そこまで出しちゃって大丈夫かなと心配になることさえあります。

普通の人の日常を見ると、とにかく参考になることがたくさんあります。たとえば、「ああやってメイクするといいのだ」、「あんなふうに掃除をすると汚れが取れるのね」、「収納のコツはそういうことなのね」などなど。芸能人やその道の専門家であればハードルも高いけれど、普通の人が簡単に、しかも安く手に入るものを使ってうまく工夫しているところを見ていると、みているだけでなんだかとっても癒されるし、スッキリ感を覚えてなんだか元気になってくることもあります。自分でもできる気がして、実際に真似してやってみたりもします。私の場合、おかげさまで百均の収納グッズを使って家の中が片付いてきましたし、買ってきた食料品を小分けして冷蔵庫に入れておいたりするようになりました。以前はやってなかったことでし、自分がやるとは思ってもみなかったことです。動画へのコメントをみていると、こうした傾向はどうやらわたしだけではなさそうです。

さてボチボチ本題に入りましょう。なぜ私たちは、私生活やプライベートをさらけ出した動画に引き付けられ、それほどまでに影響を受けるのでしょうか?わたしがみるところ、こうした動画は、視聴者の抱える潜在的な問題や悩みを顕在化する効果があるからだと思います。本人は自覚がないのだけれど、無意識の領域では気になっている問題や悩みが、動画をみることでハッキリと見えてくるということです。たとえ「キッチンの収納をしたい」と思っていなくても、動画をみているうちに「そうそう、こういうのをやりたかったのよね」「わたしの必要としているものはこれなのよ」と感じるというわけです。ここではこうした現象を「動画視聴による問題の顕在化現象」と呼んでみたいと思います。ちょっと堅い表現ですみません・・・。

この「動画視聴による問題の顕在化現象」についてもう少し考えてみたいと思います。「無意識」という概念を提唱したのはフロイトですよね。人間の気持ちや思考には、本人が意識できる領域と、本人には意識できない「無意識(潜在意識)の領域」が存在すると。フロイトは精神科医ですので、患者の意識下にある抑圧した感情や思考を表面化すること、すなわち「顕在化」することで、患者の精神の病を治療できると考えました。要するに、人間は程度の差はあれ、自分では受け入れがたい気持ちや思考を抑圧して潜在意識の領域に押し込んでいるため、気持ちがモヤモヤしたり、気分が落ち込んだりする。しかし、本人はなぜそんな気持ちになるのかはわからないわけです。だから、こうした潜在的な感情や思考を顕在化させて、手放させることで気持ちが楽になるということです。

話を動画に戻しますと、動画の視聴者(もちろん全ての人ではないです)は、癒されたりスッキリした気分になりながら、自分が気になっていたけれどもハッキリとは意識していなかった問題を、「実は私もこれで悩んでいたのよね」、「そうそう、そうしようと思っていたのよね」などと顕在化させ、実際に問題解決に乗り出したりするということです。

わたしはこうした現象やその効果は、「心」の分野まで拡がっていくと予想しています。今後、多くの動画で、たとえば「嫌いなものを食べられるようになった」とか、「この受験科目の苦手意識をこんな風に克服しました」、「嫌な上司にこんなふうに対処しました」、「こんな方法でメンタル不調を乗り越えました」などなど、通常は他人には言いたくない、どちらかといえば隠したかった心の部分やそのプロセスをオープンに配信する動画が増えてくるのではと予想しています。そして、それを見た視聴者は、「そうそうわたしも同じ悩みを抱えていたのよね」といいながら、問題や悩みを顕在化させて、実際にその問題の解決に乗り出すのです。

これは、極端な言い方をすれば、これまで精神分析医や心理カウンセラーなどが担ってきた役割を、動画配信する人たちが担ってくれる可能性があるということです。これまでメイクや収納の専門家が担っていた役割を、普通の主婦やOLさんが担っているのと同じように。そして、ここで興味深い点は、動画を配信する側もそれを見る側も、こうした顕在化現象やモヤモヤ解消効果を意図的に狙っているわけではないということです。わたしには、知らず知らずのうちに、動画をとおして人と人とが互いに助け合っているという構図がとても素敵に思えるのですが、みなさんはどう思いますか?

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