コラム

アスクワンのコンサルタント・コラム

Vol.3

コラムタイトル「誰もが持っているマネジメント欲求(1)」

 コンサルタント 渡辺 伊津子

■マネジメント欲求って何?

われわれ人間はさまざまな欲求を持っています。たとえば職場では同僚と楽しくやりたいし、仕事ぶりを上司に認めてもらいたい。さらには自分の可能性を最大限に発揮したいなどなど。人間には社会的欲求や承認欲求、そして自己実現欲求などがあることはよく知られています。では次のような欲求はどうでしょうか。あまりなじみがないかもしれませんが、ちょっと考えてみてください。

・人のやる気や潜在能力を引き出したい

・人を動かしたい

・チームや組織の目的を実現したい

・人に働きかけてチームや組織の成果を出したい

ここでは、こうした欲求を「マネジメント欲求」と呼びたいと思います。組織を生み出し、維持し、発展させるための活動がマネジメントという活動ですから、マネジメントに関連するこれらの欲求は、マネジメント欲求と呼べるのではないでしょうか。マネジメント欲求とは、人を動機づけ、人の良いところを伸ばし、さらにそうした個人の力をうまく合わせて、チームや組織の目標を実現したい、成果を出したいという欲求です。

■マネジメント欲求が充たされるとき

ではマネジメント欲求が高い人というのはどのような人でしょうか。たとえば企業の経営者やマネジャーはどうでしょうか。彼らは自分がリーダーを務める組織の成果を出すことに責任があるため、マネジメント欲求は高いと考えられます。またスポーツチームの監督なども高いマネジメント欲求を持っていると考えられます。

ただし、成果に責任を持つ全ての人が高いマネジメント欲求を持つのかといえばそうともいえません。成果を出すことに責任はあるものの、どちらかといえばリーダーは苦手で嫌々やっているのだという人もいます。リーダーとして成果をうまく出せなかったために、マネジメント欲求が低下するという場合もあります。また、今まであまり人の上に立った経験がないので、自分自身がマネジメント欲求を持っているかどうかわからないという意見もあるかもしれません。これに対して、高いマネジメント欲求を持っている人は、この欲求を充たすために現実に行動を起こす人であり、それが成果に結びついたときには大きな喜びや満足感を得ることになります。

人間は、欲求が充足されたときには、ある種の満足感や喜びを感じます。冒頭の例で考えてみると、同僚との関係がうまくいっていれば職場は楽しいし、上司から褒められればうれしいものです。また、自分の能力を最大限に発揮することができればこれ以上の喜びはないかもしれません。マネジメント欲求も同じです。たとえば、リーダーとしてチームや組織の成果を出すことができれば、やはり満たされた気持ちになります。マネジメントに成功し、すばらしい成果を出した経営者やスポーツチームの監督などをテレビで見ることがありますが、とても自信に満ちたよい表情をしています。

マネジメント欲求を満たすことから生まれる喜びや満足感は、「個人的」に高い収入や地位を得ることから得られる満足感とは明らかに異なります。マネジメント欲求を充足させるものは、「個人的」な収入や社会的地位ではなく、部下やチームが成し遂げた成果やそれに至るプロセスです。個人的な野心や能力は高くても、人々を動かして組織としての成果を出すことには後ろ向きになる人はいますし、そういう人が大勢の部下を抱えてみると、成果が平凡だったりすることも少なくありません。

では、チームや組織のマネジメントをうまく行ってすばらしい成果を出せた人々は、最初からマネジメント欲求が高かったのでしょうか。かならずしもそうともいえないでしょう。おそらくリーダーとして経験を積み、能力を高め、成長していく過程でしだいにその欲求が高まっていったのではないでしょうか。このことを裏付けているのがクリス・アージリスの「未成熟―成熟理論」です。アージリス自身が「マネジメント欲求」という言葉を使っているわけではありませんが、人間のパーソナリティーには未成熟から成熟へという発達傾向があると主張しています。次回は今回の続きを、この理論に基づいて掘り下げてみたいと思います。

参考文献

  • ・C.Argyris,Personality and Organization : The Conflict Between System and the Individual(伊吹山太郎・中村実訳 『新訳 組織とパーソナリティー:システムと個人との葛藤』 日本能率協会,1970年.)
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