コラム

アスクワンのコンサルタント・コラム

Vol.4

コラムタイトル「誰もが持っているマネジメント欲求(2)」

 コンサルタント 渡辺 伊津子

■「パーソナリティ」の発達段階

前回のコラムでは、「マネジメント欲求」について述べました。それは、人を動機づけ、人の良いところを伸ばし、さらにそうした個人の力をうまく合わせてチームや組織の目標を実現したい、成果を出したいという欲求です。このマネジメント欲求は、誰もが持っている欲求といえます。

このことを裏づけているのがクリス・アージリスの「未成熟―成熟理論」です。アージリス自身は「マネジメント欲求」という言葉を使っていません。ただし、人間のパーソナリティには未成熟から成熟へという発達傾向があり、この発達の程度に応じて、自らの欲求を実現しようとすると述べています。以下で詳しくみてみましょう。

●パーソナリティの発達傾向:「未成熟から成熟へ」

①受け身の状態から能動的状態へ

②依存状態から比較的独立した状態へ

③限られた行動様式から多様な行動様式へ

④移り気で変わりやすい関心から1つのことをやり通そうとする深い関心へ

⑤目先の短期的展望から先を見据えた長期的展望へ

⑥他人に従属的な態度から、対等のもしくは上位にあろうとする態度へ

⑦自己意識に欠けた状況から明確な自己意識と自己統制へ

①から⑦の次元は、人間が受け身の状態からより能動的状態への移行することを示しています。個人はそれぞれその成熟度が異なるため、この連続体のどこかに位置付けられます。たとえば⑥に注目してみましょう。⑥は「他人に従属的な態度から、対等もしくは上位にあろうとする態度へ」です。ここから推測できることは、人間は最初から「人の上に立ってチームを動かしたい」という欲求を持っているわけではなく、成長するにしたがって、こうした欲求が強まっていくということです。

たとえば新入社員のときには、目の前の仕事で精一杯ですから、まず「指示された仕事をきちんとこなしたい」という思いが強いでしょう。ただし、その後仕事に慣れてくると、「もっとスピーディーに仕事を行いたい」、「自分で仕事のやり方を工夫したい」、そして「もう少し責任のある仕事をしたい」という欲求が次第に強まり、さらには「人の上に立ってチームを動かしたい」という欲求が強くなってくるということです。

■マネジメント欲求を充たす仕事や職場環境

アージリス理論を前提とすると、マネジメント欲求というある種の成長欲求を満たすためには、それにふさわしい仕事や職場環境が重要であることがわかります。さきほどの新入社員の例でいえば、年月が経過し彼や彼女のパーソナリティの成熟度が高まるにつれて、やりがいのある仕事が与えられること、キャリアパスが整えられていることなどが必要となるのです。仕事にも慣れてきて、しだいに「人の上に立ってチームを動かしたい」という欲求が芽生えてきた時期に、それまでと同じ単調な仕事しか与えられなければ、成長もあまり期待できません。アージリスは、その著書で次のように述べています。

「若い従業員は一般的に高い勤労意欲で職業をはじめるが、その多くは数年の間に満足を失う深刻な問題に直面する。彼らは中年になると、自分の運命を受け入れ始め、積極的に職務にとりくまず、伝統的な意味で、彼らに未来がないと理解するようになる。」

もしこのような結果を招いてしまうとすれば、それはとても残念なことです。そうならないためには、次のことを肝に銘じておくことが必要かもしれません。第一に、人間がマネジメント欲求を持つことは至極当然のことであり、この欲求は人が職場で経験を積み、成長していく過程でじょじょに高まっていくということ。第二に、企業の側は、そうした成長を可能にするような仕事や職場環境を整えることが非常に重要であるということです。

引用文献

  • ・C.Argyris,Personality and Organization : The Conflict Between System and the Individual(伊吹山太郎・中村実訳 『新訳 組織とパーソナリティー:システムと個人との葛藤』 日本能率協会,1970年.)