コラム

アスクワンのコンサルタント・コラム

Vol.8

コラムタイトル「どんなブランコに乗っていますか?」

 コンサルタント 渡辺 伊津子

■駄々をこねる子供

自分の思い通りに事が運ばなくて無茶を言ったり、他人に当たり散らしたりすることを「駄々をこねる」と言いますが、皆さんは最近、駄々をこねましたか?こんなことを聞くと、ほとんど人は「いやそんなことはしていませんよ」と答えますよね。でも、あの人はまるで駄々っ子みたいという表現もあるところをみると、やはり大人でも駄々をこねることがあるのでしょうね。

経営学者のロバート・クインはその著書『ディープ・チェンジ 組織変革のための自己変革』のなかで、われわれ人間は「ブランコにしがみつき離れたくないと駄々をこねる子供のようだ」と述べています。子供が遊園地のブランコで遊んでいるところを想像してみてください。その子は両親が「あっちにもっと楽しい乗り物があるよ」と言っても、「もうそろそろ帰ろうね」とうながしても、ブランコから離れたくないといって泣きわめいています。

クインは、組織変革を実現しようと思えば、なによりもまず、その組織にいるひとりひとりの自己変革が不可欠であると述べています。しかし、誰もが駄々っ子のように自分のブランコにしがみついているため、自己変革は非常に困難だと指摘します。実は、この場合のブランコは人間が持つ習慣的な思考様式を意味しています。この思考様式は、長年をかけてわれわれの意識の奥底に定着し、無意識にわれわれの物の見方や考え方を規定しています。これを変えることは至難の業です。ですから、今まで慣れ親しんできた考え方から離れたくないと駄々をこねるというわけです。

同書のなかからもう1つ例をあげてみましょう。登場人物は新婚夫婦です。大恋愛の末、結婚した二人は新婚旅行から帰ってきました。翌朝、朝食を終えると、妻は椅子に腰かけておもむろにタバコに火をつけました。ふたりが出会って以来、実は、夫は妻に対して気に食わないことが1つだけありました。それが喫煙です。この朝、夫はとうとう我慢できなくなり、妻に語りかけます。さて、もしあなたが夫ならどのように妻に語りかけますか?

わたしは研修でときどき、この設定でロールプレイをやってもらうことがあります。そうると、ほとんどの夫役は「タバコを吸うのは良くない。身体に悪いし、タバコをやめるべきだ」という内容のことを妻役に向かって言います。そして同じようにほとんどの場合、妻役は「どうして今頃そんなことを言うのか?そんなに簡単には止められない」と言います。そして二人の会話はだんだん感情的になり、エスカレートしていきます。なぜこんなふうになるのでしょうか?

■他人に変化を求める人間

なぜなら、二人とも自分ではなく、他人に変化を求めるからです。夫も妻も自分は変えたくないのです。そこで人間ははまず相手に問題点を指摘し、どのように行動を変えるべきかを言い渡します。一方、ここが肝心なところですが、自分はいっこうに変わろうとしません。お互いに自分のブランコにしがみついて、決して離れようとしない駄々っ子そのものなのです。

では、職場や組織の変革や改革にあたって、他人に変化を求めることはどのような事態をもたらすでしょうか?たとえば、上司であるAさんは、「何事も決めるのは自分たち上司、部下は指示通りやればよい、そうすればうまくいく。もしうまくいかない場合にはもっとやらせればよい」というような思考様式(ブランコ)を持っているとしましょう。

この場合Aさんは、クインの言葉いう「指示による変革」を試みます。部下に変化を求めるわけです。Aさんは、部下に大きな変化を遂げさせようと計画を練ります。そして部下を前にして訓示を垂れ、文書を配布することで部下に行動を変えるように求めます。彼の任務はこれで完了です。しばらくしても指示した変化が起きなければ、さらに強硬策に打って出ます。それでもうまくいかず、結果的に変革が失敗したときには、その失敗は言われたとおりにやらなかった部下のせい、悪いのは部下ということになるわけです。

われわれは失敗や問題などが生じたとき、その原因を部下のせい、上司のせい、そして会社のせいなど自分以外のところに向けがちです。その理由は、自分は変わろうとせず、他人が変わるべきだと考え、他人に変化を求めるからです。ですから、もし皆さんがそんな気分になったときには、「駄々をこねる子供」の話を想い出してみてください。そしてゆっくりと遊園地を見回し、ブランコ以外の乗り物に乗ってみてください。もしかするとそれはブランコよりずっと楽しいかもしれませんよ。「あなたは今、どんなブランコに乗っていますか?」

参考文献

  • ロバート・E・クイン(2013)『ディープ・チェンジ 組織変革のための自己変革』
  • 海と月社
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