■捨てることの効用

近頃、朝晩冷え込むことが多くなり、少しずつ秋の気配が感じられるようになってきました。新しく秋物の服を買うのに先立って、今まではあまり手にしたことのないファッションに関する本を読んでみました。それによれば、オシャレを目指すとき、最初にすべきことは、「捨てる」ことだとか。クローゼットがいっぱいでは、気に入った服を見つけても、「この色のシャツは1枚持っているから別のものにしよう」などと考えてしまい、ベストの選択の障害になってしまうからだそうです。私のクローゼットの中も、いつ買ったか分からない服であふれかえっていました。そこで、本で読んだように、着ていない服を処分したところ、不思議と晴れやかな気分になりました。服を買いに行っても、手持ちの古い服を頭に思い浮かべることなく、まっさらな状態で選べるようになりました。

■在庫の棚卸と、「捨てる」ということ

実のところ、経営についても同じような側面があると思います。つまり、「在庫」のことです。ご存知の通り、会社決算においてはほとんどの場合、期末に在庫の棚卸を行います。売上に対応する原価（売上原価）は、「当期仕入高＋期首棚卸高－期末棚卸高」であらわされるため、期末時の在庫の棚卸が必要なのです。期末時点の在庫は翌期以降に売れる分の原価となるもので、当期の原価ではない、ということです。在庫の棚卸は重要な作業ですが、在庫になるのは必ずしも正常品には限らない点に注意する必要があります。たなざらし品や仕損じ品、作業くずなども、期末棚卸時に会社にあれば、在庫として計上が必要になります。もしかしたら売れるかも、と社内に残すのも一つの手ですが、思い切って捨てるのも、選択肢の一つかもしれません。捨ててしまえば当然、在庫としての計上は不要なので、カウントする必要もありません。また廃棄したものに投入した費用は当期の原価となり、その分、所得金額を減少させることができます。

■製造業における売上原価と原価計算

ところで、「売上原価＝当期仕入高＋期首棚卸高－期末棚卸高」という算式は、製造業において、必ずしも会社にとって有用な情報をもたらしてくれるとは限りません。なぜかというと、会計期間全体での原価は分かっても、ある製品を1個作るのに要した原価は分からないからです。そもそも、この算式自体が商業簿記の計算記録方法に基づいたものであるため、性質上製造業になじまない部分も多いのです。原価計算の大家である岡本清先生は、『原価計算』の中で、商業簿記の原価計算方法を、製造業に当てはめることを、通称「丼勘定方式」と呼ばれていると紹介したうえで、その問題点を以下の通り指摘しています。

①　もし製品別の実際原価がわかれば、これにマージンを加えて、製品の売価をきめることができる。しかしながら丼勘定方式では製品別の実際原価が不明であるから、売価決定に役立つ原価資料がえられない。

②　会計期間の途中では、企業が儲かっているのかいないのかさえ、経営者にはわからない。それが判明するのは、半年ないし1年ごとに行われる期末棚卸を実施したのちである。

③　原価材がどの部門で、いくら消費されたのかがわからないから、原価管理用のデータがえられない。

④　製品別の実際原価が不明なので、どの製品が儲かっているのかがわからず、利益計画用のデータがえられない。

要約すると、1年間の売上に要した全体の原価は分かるものの、会社の意思決定に重要な個別の原価情報はほとんど分からない、といったところでしょうか。

■原価計算のススメ

会社の規模が小さいうちは、社長が全体を見ることができるため、所謂「丼勘定方式」でも十分対応できるでしょう。むしろ社長の経験と知識が、意思決定に最も有用といえるかもしれません。しかしながら、ある程度の規模になってくると、前述のような問題の重要性が増してくるため、原価計算が必要になってくるでしょう。1個100円で作っていると思っていたものが、120円かかっていた、などということになれば、会社経営にとっては致命的なことになりかねません。

ではどうすればいいのかというと、全ての会社に用いることのできる決まった方程式があるわけではありません。個々の会社がもつ業態やプロセスに合わせて、適切に計算していく必要があります。まずは以下の3つのことを試してみてはいかがでしょうか。経営を見つめなおす良いきっかけになるかもしれません。

①　自社製品の製造工程を、できるだけ細分化したうえで整理してみる。

②　各工程ごとに、投入する材料や労働力を洗い出す。

③　製造に直接的に要する費用以外の費用の棚卸品への配分方法を考える。